愛知県岡崎警察署での勾留中男性の死亡事件について(続報)
事件は2022年12月4日、愛知県岡崎警察署内で発生しました。民主主義国家であり自由と基本的人権が最も尊重されるべきこの国で起きたおぞましい人権蹂躙(じゅうりん)事件です。
みんなねっとでは決して看過できない事件として、2023年1月17、その経過と概要をホームページに公表し問題点を指摘、意見と要望を表明しました。
1.事件の概要を振り返る。
2022年11月25日、統合失調症と糖尿病がある男性が公務執行妨害容疑で逮捕され岡崎署内に勾留されました。そして急性腎不全と脱水で死亡する12月4日までの10日間の出来事は聞くに堪えません。保護室での延べ144時間に及ぶ身体拘束、足で何回も蹴る、頭が便器に入ったまま放置される等の暴行、虐待を受けています。また精神疾患者に必要な薬等の医療提供もしない不手際。水分補給や食事提供も不適切でした。
この間、いったい何があったのか。残念ながら、私たちには知るよしもありません。
事件に対して、2023年12月1日愛知県警察は留置主任官を含む9名を業務上過失致死容疑また特別公務員暴行陵虐疑いで名古屋区検察に書類送致しました。同時に、愛知県警察は岡崎署長や警部など計27人におよぶ処分を実施しました。
更に、警察庁は事件を受けて再発防止策はじめ拘束具は連続3時間まで、署長は巡視1日1回以上、医療との連携強化等を全国の警察に指示しています。また愛知県警に対しては、今後再発防止策が徹底されているかどうかをチェックする特別巡察を実施することを指示しています。
2.愛知県検察に書類送致された9名はどうなったのか。
2024年2月28日、書類送致を受けた名古屋区検察は留置主任官だった元警部を業務上過失致死で簡易裁判所に略式起訴し、他の8名は不起訴に決定しました。そして 2月29日、略式起訴になった元留置主任に対して、名古屋簡易裁判所は罰金80万円の略式命令を出したのです。
1人の人命が失われた事実に比べ、この処分はあまりにも軽い処分と思わざるを得ません。なぜ8名は不起訴なのか。なぜ元警部は80万円の略式命令なのか。当然ながら死亡した男性の家族はこの処分に納得できるはずはないのです。
これで事件を終りにしていいのか・・、という素朴な疑問と憤りが残ります。
3.私たちは事件の真相を公表することを求めます。
警察庁、検察庁には本事件の真相を公表することを求めます。死亡した男性は統合失調症でした。この事実は、逮捕後、一両日中に警察は知りえたはずです。何故、この時点で適切な医療受診ができなかったのでしょうか。また、保護室での暴行、虐待に対して警察署内で他の職員らはどうしていたのでしょうか。知って見ぬふりだったのでしょうか。人としての良心を感じなかったのでしょうか。
愛知県警察、名古屋区検察庁はこういったことを含め事件の全容を公表すべきで
す。特に関わった警察官や職員らの気持ち、心情は事件の深層を理解するうえで重
要であると考えます。
4.法改正を含む再発防止策の確立を強く求めます。
本事件は全国の警察署でも起こりうる可能性があります。パニック状態をその原
因が疾患によるものか否かの判断は現実には難しいものです。だからこそ二度とこ
のような悲劇が起こらないよう再発防止策の確立が急務であると思います。
国及び警察庁には、日本が批准している障害者権利条約の主旨に沿った警察官職務執行法、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律等の改善を求めます。あわせて、各都道府県警察に整備されている留置管理規定等の見直しが必要です。 更に、各警察署において精神疾患等の理解とその対応について最前線の警察官等への教育研修をより充実することが必要です。
5.最後に
私たちは人権蹂躙(じゅうりん)を見過ごすことはしません。誰もが人生の1回性を知っています。だからこそ、生命は尊く人権は尊重されなければならないのです。
今後、この事件がどのような経過をたどるのかは分かりませんが、みんなねっとは人権擁護の立場から推移を見守っていく所存です。
2024年4月9日
公益社団法人全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)