陳情は 厚生労働省社会・援護局 障害保健福祉部 精神・障害保健課 課長林修一郎氏、精神医療専門官藤井裕美子氏が同席のうえ、岡田理事長・小幡事務局長が提出いたしました。
陳情の内容は次の通りです。
滝山病院事件等に見られる精神科病院における諸課題とその解決に関する陳情書
2023年2月、東京都八王子市の精神科滝山病院で看護師らによる入院患者への暴行事件が発生しました。この事件はNHKなどの報道をきっかけに社会的な注目を浴び、精神障害の患者に対する虐待や差別、スティグマの問題、更には精神障害がある人の家族の苦悩があらためて浮き彫りになりました。家族は必死の思いで本人を精神科医療につなぎ、その回復を願うものですが、家族の負担は重く、心身ともに疲弊し、また家族の高齢化等に伴い、あるいは本人の合併症の治療が可能な医療機関を求めて、最終的には、長期入院が可能な医療機関を頼らざるを得ない状況に至ることも稀ではありません。このような中、全国に報道されたテレビ画像に、精神障害者の家族は“見るに忍びず、聞くに堪えない”おぞましい現実に心を痛めるばかりでした。そしてこの心情は、時間の経過とともに“憤り”に変わり、精神科病院ひいては精神科医療に対する改革への声として大きくなりつつあるところです。
今回の滝山病院事件は個別案件(単なる一医療機関の患者への虐待や人権侵害)だけでなく、日本の精神科病院とその施策が抱える構造的な問題を示しています。今回に限らず、精神科病院内での暴行・虐待事案は、全国のあちらこちらで繰り返されています。なぜ、なくすことができないのでしょうか。精神疾患は国民の誰でもがかかる可能性のある病気のひとつです。苦しく辛い病気を治療するために入院した病院内で虐待が起こるなどあってはならないことです。精神科病院における虐待事案が繰り返されることで、本当に必要な時にも精神科医療への受診を躊躇させ、助けを求められない状況をつくりだしてしまうことを強く危惧しています。今後、二度と繰り返すことがあってはなりません。
患者・家族は、本来なら頼れるべき精神科病院で、今回の滝山病院事件が発生していること、これは社会的縮図のような人権侵害の現れであることに、心を大きく傷つけられ満身の思いで強く抗議します。
2023年3月、日本精神科病院協会・山崎会長が滝山病院事件について公式に謝罪し滝山病院の聞き取り調査を実施しています。その結果「院長は暴行を把握していなかった」、「死亡率が高いのは重症な合併症患者が多いのが理由」、「非常勤の職員がおよそ9割ちかい」、「人権研修等が行き渡っていなかった」等が明らかになりました。これらは精神科病院のなかに実在する問題点として無視できない現実があります。
公益社団法人全国精神保健福祉会連合会は、滝山病院における患者虐待事件に強く抗議するとともに、滝山病院事件及び本事案に象徴される精神科病院の問題点とその解決、今後の改善について次のとおり陳情いたします。
【要望1】滝山病院事件の実態調査と報告、責任者の処分と病院運営の改善
・厚生労働省としても、事件の実態を徹底的に調査し、見解を社会に公表すること。
・法人理事長や理事、院長などの責任者に対しては、病院管理者の変更などの厳正な行 政処分を実施できるようにすること。
・さらに、病院運営を密室での私物化に陥らないように、職員や患者や家族などの関係者が参画できる組織体に改善すること。
・行政のみならず、第三者機関が介入し、監督・指導・支援がおこなわれること。
・入院患者に対しては、本人の意向をもとに転院先や退院後の生活支援などを含めた救済措置を提供すること。
【要望2】精神科病院の入院患者への適切な医療・ケアの改善
・入院患者に対しては、適切な医療行為やQOL向上が行われているかどうかを把握するために、早急に実態調査を行うこと。
・身体合併症への対応や身体拘束の問題に対しては、ガイドラインの検討や規制の導入と教育プログラムの充実を行うための職員の意識改革の再教育が必要である。
・とりわけ長期入院患者に対しては、転院先や退院後の生活支援などの提供をすること
・一般病院や地域精神医療機関などの適切な転院先を確保し、医療ネットワークを充実させること。
【要望3】開かれた精神科病院の実現
・精神科病院における人権侵害事案は、閉鎖された空間で起きていることが多い。そのためには、入院者訪問支援事業の強力な促進と共に、患者家族が自由に面会できる仕組みや地域住民との交流を定例化するなど、開かれた精神科病院を実現すること。
・患者、家族への適切な情報提供すること。また、地域住民との交流を促進するために地域交流加算(仮称)の新設を望む
【要望4】精神科医療制度・政策の抜本的な改革
・精神科医療は、偏見や差別、閉鎖性や隔離性などの問題に直面している。そのためには、いわゆる精神科特例をもとにした人員配置基準などの廃止や診療報酬改定を含む制度改革や、人権保護や社会参加を促進する政策が必要である。
・精神科医療は、認知症患者もふくめ、地域移行や福祉的ニーズにも対応しなければならない。そのためには、地域で支える精神医療の実現に向けて政策を加速して進めること。同時に医療と福祉の連携や支援体制の構築が必要である。
・家族への支援体制の構築や、家族会などの自助グループへの支援制度の創設、家族心理教育を始めとする家族支援に対する診療報酬化を求める。
・これまでの行政監査・指導では、事件のような実態が把握されることがなく、逆に医療機関としての高評価が導かれている実態が少なくない。行政監査・指導そのものの問題を浮き彫りにされることもない。国の行政責任として、行政監査・指導の構造とその在り方の見直しを求める。
以上
公益社団法人全国精神保健福祉会連合会2023年度第1回定期総会特別決議(2023年6月16日)